「求人を出しても応募が来ない」
「面接までは進んでも、最後に辞退される」
「採用できても、長く続かない」
介護・福祉の現場では、こうした悩みがもはや一時的なものではなく、経営課題そのものになっています。
厚生労働省によると、介護職員の必要数は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人に達する見込みです。
一方で、介護関係職種の有効求人倍率は4.02倍と、全職業平均の1.10倍を大きく上回っています。
つまり今の採用は、「募集を出せば人が集まる」前提で組み立ててはいけない市場に入っているということです。
さらに、令和6年度の介護労働実態調査では、従業員が「不足している」と感じている事業所は65.2%にのぼりました。
離職率は12.4%で2年連続低下した一方、採用率は14.3%と3年ぶりに低下しています。
つまり、辞める人を減らせても、それ以上に「採れない」ことが人員不足を深刻にしていることになります。
こうした状況で必要なのは、求人媒体を増やすことだけではありません。
もちろん、処遇改善や賃金の見直しは重要です。
実際、採用に効果があった施策として最も多く挙げられているのは「賃金水準の向上」です。
ただ、条件だけで人が集まる時代でもなくなっています。
似たような給与帯、似たような仕事内容の求人が並ぶ中で、最後に選ばれるのは「この事業所で働く意味が見えるかどうか」です。
そこで重要になるのが、採用のためのブランディングです。
ブランディングとは、“きれいに見せること”ではない
介護・福祉の現場でいうブランディングは、ロゴを整えたり、おしゃれな採用サイトを作ったりすることだけではありません。
もっと本質的には、自分たちがどんなケアを大切にし、どんな人と働きたいのかを言葉にし、それを社内外で一致して伝えることです。
厚生労働省は、介護人材確保の柱として「参入促進」「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」の3つを示しています。
これは裏を返せば、採用は単なる募集活動ではなく、業界に入ってもらう入口づくり、育つ実感のある環境づくり、そして安心して働き続けられる職場づくりまで含めて考える必要がある、ということです。
ブランディングは、その3つを一つのメッセージとして見える化する役割を持っています。
応募が来ない本当の理由は、「魅力がない」ではなく「伝わっていない」ことも多い
現場では、「うちは特別なことをしていないから、発信することがない」と感じる声も少なくありません。
ですが、求職者が知りたいのは、派手な実績だけではありません。
たとえば、どんな利用者層に強いのか、どんな職員がいるのか、教育はどう進むのか、急な休みにどう対応しているのか、管理者は現場をどう見ているのか。
こうした“日常の運営の質”こそ、応募の判断材料になります。
介護サービス情報公表制度があるように、いまは利用者も家族も事業所を比較しながら選ぶ時代です。
事業所の情報が見えることは、利用者側だけでなく、求職者にとっても安心材料になります。
採用でも同じで、「働いてみないと分からない」状態のままでは、人は応募しづらいのです。
だからこそ、採用ブランディングの第一歩は、自分たちにしかない大きな強みを探すことではなく、自分たちの日常を、外から見える形に整えることだと言えます。
採用ブランディングで最初に見直すべきは、「条件」より「約束」
求職者にとって、給与や休日はもちろん重要です。
ただ、それだけでは応募の決め手になりにくくなっています。
なぜなら、働く人が本当に気にしているのは、「ここでなら自分が壊れずに働けるか」「ちゃんと育ててもらえるか」「人間関係は大丈夫か」という点だからです。
実際、介護関係の仕事を辞めた理由のトップは「職場の人間関係に問題があったため」が24.7%でした。
その具体的な内容としては、「上司や先輩からの指導や言動がきつい」「パワーハラスメントがあった」が最も多く挙げられています。
また、働く上での悩みとしては「人手が足りない」49.1%、「仕事内容のわりに賃金が低い」35.3%が上位にあります。
つまり、採用で伝えるべきなのは“いい条件”だけではなく、どういう関係性で働けるのか、どんなマネジメントをしているのか、無理が出た時にどう支えるのかという職場としての約束です。
発信するべきは、理念より“働く風景”
採用広報でありがちなのが、理念や想いだけが先に立ってしまうことです。
もちろん理念は大切です。
ただ、求職者が見たいのは、理念そのものよりも、その理念が現場でどう実践されているかです。
たとえば、「利用者本位」と書くなら、現場でどんな判断をしているのか。
「成長できる職場」と言うなら、入職後3か月、6か月、1年でどう育てているのか。
「チームワークが良い」と伝えるなら、情報共有やフォロー体制はどうなっているのか。
こうした“働く風景”が見える発信は、応募の不安を減らし、入職後のミスマッチも減らします。
採用難の時代に必要なのは、うまく飾ることではなく、自分たちの仕事の解像度を上げて伝えることです。
これからの採用は、「募集」ではなく「理解を積み上げる活動」
採用を単発の募集活動として見ると、求人広告を出して終わりになります。
ですが、採用ブランディングの考え方に立つと、採用はもっと長い活動になります。
ホームページの採用ページ、SNS、職員インタビュー、見学時の案内、面接での伝え方、入職後のフォロー。
これらすべてが一つのブランド体験です。
特に中小規模の事業所ほど、知名度で勝負するのは難しい一方で、現場の温度感や意思決定の速さ、管理者との距離の近さなど、大手には出しにくい魅力があります。
大切なのは、それを「うちなんて」と流さず、言葉にして、写真やエピソードにして、求職者が想像できる形にすることです。
採用難を変えるのは、魔法の媒体ではありません。
この事業所で働く理由を、相手の目線で丁寧に伝え続ける姿勢です。
まとめ
採用難の時代に、ブランディングはぜいたく品ではありません。
むしろ、条件だけでは選ばれにくくなった今、経営に直結する実務です。
大切なのは、次の3つです。
・自分たちの強みを、サービスではなく“働く価値”として言語化すること
・理念ではなく、日々の運営や育成、人間関係が見える発信に変えること
・採用広報と職場の実態を一致させ、入職後のミスマッチを減らすこと
人が集まらない時代だからこそ、問われるのは「何人採れるか」だけではありません。
どんな事業所として見られているか。
その視点を持てたとき、採用は“お願いする活動”から、“選ばれる仕組みづくり”へ変わっていきます。